*「わたしを離さないで」by カズオ・イシグロ

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 同名の映画を観たのはキャリー・マリガンを『17歳の肖像』で見た直後だったからだと記憶している。そして1年以上経って、職場のお隣さんが小説を貸してくれた。但し氏は映画は未鑑賞だという。
 イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞した日本生まれイギリス育ちの作家カズオ・イシグロの異色と言えるラブストーリーだ。氏は「日の名残り」でブッカー賞を受賞らしい。この作品が映画化されているのは知っていたのでググってみれば1993年にアンソニー・ホプキンス主演で渋い作品に仕上がっているらしい。内容はイギリスらしいものだという。
 一方本作は不思議なテイストだ。あとがきで「英米文学研究者」の柴田氏が書いている。氏は「細部まで抑制が利いた」「入念に構成された」で始めているが、まさに当を得た表現としか言いようがない。何だろう?女流作家の作品?え、山場は? そんな当惑を抱えたまま物語が進行するのは、映画でも同じだ。
 最近には珍しく邦訳がついていることに(「NEVER LET ME GO」でも良いんじゃない?)違和感を覚えたが、なるほど物語のスパイスに重要人物マダムが涙ぐむエピソードがあって、終盤にその時キャシーが踊っていた曲が「NEVER LET ME GO」だったからなんだなぁ。この曲はイギリスでは有名なのかもしれない。小説の題名を聞いただけで、ピン!とくる者も多いのかも、だ。
 映画でも不思議に思ったのは「提供者」が運命をタンタンと受け入れることだ。その頃知り合いの一人がすごく落ち込んでいたときに、知り合いの先輩がこの映画を薦めていたことを思い出して不思議に思ったものだ。よりによってなぜにこの映画・・・? 知り合いの知り合いのため、口も聞いたこともないので何とも言えないが、心の琴線に触れたのかもしれない。それにしても特別な映画を薦めたものだ。かくいうお隣さんも、なぜにこの小説を薦めてきたのかも、正直不思議なのだが。
 「日の名残り」か、氏の違う小説のどちらかを冬休みにチャレンジしてみようと思った。