*『向日葵の咲かない夏』

『夏草の記憶』(トマス・H・クック)の鮮やかなどんでん返し(と、時代背景&甘くほろ苦い青春期を描ききった)に感動を覚え、ググってみれば、日本で言えば道尾秀介の本作に近いと言う。因みに「このミス2009年版第1位」である。
 一方でレビューに、「好き・嫌い」が綺麗に2つに分かれているのも特徴。
タイトルは興味深い。読み出すとガキンチョ(9歳男児と3歳女児)の話だ。しかし主人公ミチオはコナン君並みに優秀で、妹はやけに大人びている。「そんな単語、小学高学年まで知らないぜ!?」みたいな語句がバンバン出てくる。やたら奇妙な家庭環境・・・そして2/3を越えた当たりで妹のミカが死んだ蜘蛛をパクリと食べるシーンが出てくる。謎が謎を呼ぶあたりは、とりあえず「このミス1位」なのか。ずっと、ミチオ君の苗字も分からないまま、終盤一回だけ漢字で出てくるのはなぜか?
 単行本の解説に「読んだことはあるのに内容が思い出せない図書が多いが・・・」とあり、確かにその通りなのだが、本書は忘れがたい内容になっている。それほど異色な作品だ。しかし『夏草の記憶』(トマス・H・クック)の読んだ後の切なさ・涙がでてくるような悔恨などとはほど遠い。両作品とも読み比べてみて欲しい。
 ちなみに本書は読みたいとずっと片思いだったのだが、つい最近知人が亡くなった。遺言で「好きな図書はどれでも好きなだけもっていって良い」とあり、故人の趣味が分かりやすい本棚になっていたのだが、その中に道尾秀介の作品が唯一置いてあったのを頂いて読んだのである。きっと故人は「このミス・・・」で知り、本書1冊で満腹になったのであろう。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)