*『ぼくのメジャースプーン』(辻村深月著)

 車内で暇つぶし用読書本図書館を探したら、辻村深月が出てきた。夏だからもっとお堅い本も考えたが、彼女なら間違いないだろうと手に取った。
 主人公は小学校4年生男子の「ぼく」。母一人子一人の家庭。たまに口の悪い級友に父親がいないことを揶揄される。今まで仲良かった女子とは、そろそろ性差があると言うことに気付いて、仲良かった幼馴染みにも冷たくなるよなお年頃……のような気もするが、本著の主人公「ぼく」はそんなことも無く、幼馴染みの「ふみちゃん」のことを気にかける良い奴で、まぁとどのつまり小説の主人公によくあるタイプだ。他人を苛めて日頃の憂さを晴らすような奴では決して無い。エライエライ。

 物語はというと、ふみちゃんがとても大切にして面倒を見ている、小学校のうさぎを医大生がネットで目立ちたいただそれだけで裁縫鋏で切り刻んで、動画に載せるんだね。その殺害直後の現場に出会って、ふみちゃんはショックで口がきけなくなる。
 ふみちゃんの仇を取るために、もって生まれた特殊能力(と言うほどでも無いが)でその医大生に立ち向かう話……と書くとリベンジもののようにも超能力ものにも聞こえるが、どう立ち向かうか悩む10歳児の話なのだ。彼の叔父が同じような能力を持ち、メンターのような立場で指導・助言を与えて、対決に迫っていく話。
 序盤の「特殊能力」までの展開は早くて面白い。ふみちゃんとの逸話もスピード感あって引き込まれる。こんな子ども達がいる小学校は良い学校だ。
 「うさぎ小屋の惨劇」があり、ふみちゃんが壊れ、犯人が判明し、特殊能力で仕返すために、叔父の大学教員と話す数日間は、しかし展開が重い。説明する例えも難しい言葉が多く、近年の中学生でも理解できないような語句がバンバン出てくる。でも理解できちゃう。さすができた主人公だ。
 終盤は言わずもがなの、「能力」をどう使うのか、だ。そしてふみちゃんが(戻ってこられる)のか、どうか。
 そもそもタイトルが「メジャースプーン」って少し変。この言葉はどう物語に関係するのでしょう? それとも物語のスパイスになるタイプのアレかな? 
 読後の感想は悪くない。小中学生が自分の事と捉えながら読むのには最適なのだろう。またあとがきにも出てくるが、辻村深月は作品同士でつながりが多くて、作中の誰々は、違う作品でも出てくる事が多く、ファンにはたまらない構造になっている。これを探すのも楽しみの1つ。