*『あなたが愛した記憶』(誉田哲也著)

背表紙の解説が不思議だ「ノンストップ恋愛ホラーサスペンス」。かつて安いアメリカ映画ではコメディが入っているノンストップ恋愛ホラーサスペンスは、あることはあった。しかし小説ではいまだ知らない。
 冒頭、猟奇殺人で幕を開ける。「序」は緩。ストーリーは最近の小説・映画にありがちな、あちらこちらの時代・場所・登場人物に飛ぶので整理しづらい。
 中盤からは読ませる。誉田哲也上手い。彼の作品を他に読んだことがあったか・・・? 睡眠時間を削ってる場合じゃ無いが、先を知りたくてついついもう1頁、もう1頁。6才の彩奈が「色彩の彩に奈良の奈」と自分の名前を説明する辺りは、もう何が何だか。主人公栄治の娘と名乗る民代の人物も魅力的だ。さらに栄治のことをずっと小さい時から恋心を抱く美冴なる女性も華を添える。興信所の栄治は少しずつ謎に近づくのだが・・・
 後半に入る頃、映画にありがちな特殊な能力・・・SFとか超能力のような・・・が出てきて、一気に興ざめだ。だがそこを乗り越えると映画並のような展開が。そう、物語の出だしは1才に満たない乳幼児殺しから始まっている。凄惨な連続殺人が終わっても物語が終わらないのはそのためだ。
 後書きに寄れば「ラストで謎が全部解けて、それで終わる物語にはしたくない」と誉田が語ったとある。こういう物語もあるのだな、と思った。そして、あの荒木飛呂彦のスピンオフ、岸辺露伴の「六壁坂」に似たテイストがあったかなぁなんて思う。