*佐々木譲 制服捜査

metoo7s2011-08-15

「笑う警官」で有名な佐々木譲日本推理作家協会賞やら山本周五郎賞などを獲得している作家だ、ぐいぐい読ませる。1998年から北海道在住なのだそうだ。だから氏の書く警察シリーズは北海道が舞台なのか。事件の多い警視庁や大阪府警が舞台でないというのも珍しい気がする。

制服捜査 (新潮文庫)

制服捜査 (新潮文庫)

しかし本作の珍しさというのは、駐在所が舞台と言うことだ。しかも人口6千足らずの町。これでは事件は起きない。かといって住民と駐在との心温まる触れあいがテーマのではない。普通に暮らしていると気付かない、だれかが指摘することで「ハッ!」となることがある。本作は短編集なのだがその中の「仮装祭」というのがある。物語はこうだ。
13年前に7歳の女子が行方不明になったことがある。田舎町なので川に落ちたとかの事故が疑われる。もちろん今なら性犯罪が疑われるのだが。祭りの最中のできごとだから、地元の防犯協会や消防団も酒が入っていて十分な捜査ができずにお宮入り。調べればそこは15年以上も前から痴漢などの性犯罪が1件も起きていない優良な地域だと言うが・・・・
その一方で短編集の冒頭から、女子高生が突然都会の高校に転校などの話が出てくる。駐在所の前任者からは、「駐在の一番の任務は何か?」と訊かれ主人公川久保は「被害者を出さないことですか?」とこたえるが答えは「加害者を出さないことだ」と答える。似て異なるもの。特に地方の小さな閉鎖的空間では加害者はそこに住めなくなり生きていけない。些細な性犯罪はもみ消していく、そんな雰囲気が地元の有力者の中に根付いている。その地元の有力者こそが防犯協会な会長だったりする。突然の転校=何かの犯罪(大抵は性犯罪)に巻き込まれたことを意味する。
そういう社会問題を提起していくところが佐々木譲の真骨頂だ。佐々木譲の言いたいことが主人公の口を借りて、突き刺さる。たとえばこうだ。「まだ、あの件こだわっているのか」「ええ。あんたはこなあいだまで施設課に痛そうだけど、私は15年刑事課にいた。見えるものが違う」(逸脱)
警察庁から来た男 (ハルキ文庫)

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