今週のお題 童話:「僕の夢」

metoo7s2012-04-23

「ヤマネちゃん、ヤマネちゃん、一体何をそんなにキョロキョロ探しているの?」
 雪うさぎは、雪山から顔をのぞかせているヤマネちゃんにききました。実際のところ、ここ数日雪が降り止まず、お腹も空いていたので、ヤマネちゃんが食べ物を見つけたら、少しおすそ分けしてもらおうと思ったのです。
 「あいだよ」
 ヤマネちゃんはこちらを振り返ることも無く、早口で言ったので、雪うさぎには「・・・いだよ」しか聞こえませんでした。
 (かい、っていったのかなぁ?)渡り鳥さんから、海辺に住む「貝」の話は聞いたことがありましたが、どんなものなのでしょう? ここは山の中だけど貝があったのでしょうか? 首を傾げて雪うさぎは訊きました。
 「ねえ、それは美味しい物?」
そこで初めてヤマネちゃんは、雪うさぎを見つめてはっきり言いました。
 「僕は『愛』って言ったんだよ」
 雪うさぎはもっと首を傾げました。
 「それは、美味しいの?」

 ヤマネちゃんは、昨日お祖父ちゃんから、「愛」というものを初めて聞きました。昔々お祖父ちゃんがまだ若かった頃、1組の若い人間が山の中に来て、数日をすごしたそうです。二人は何かというと「愛してる」とささやいては顔を近づけていたんだそうです。
 「愛してる」ってどういうことかよく分からなかったけれど、お祖父ちゃんはその若い女性をみていると、段々と胸が痛くなって、挙げ句の果てには、その女性のことばかり考えるようになって、自分は気がおかしくなっちゃったって思ったらしい。その男女が町に帰ってから、(もしかしてこの気持ちが「愛」って言うものなのか?)って思ったらしい。
 
 「それは『好き』ってことじゃないの?」
 雪うさぎは、なぁーんだ、という顔をしている。
 「え、違うよ、違うよ。『愛』ってのは絶対不変なものらしいよ。だけど・・・」
「だけど?」
 「それから何年か経って来た男性は、違う女性を連れてきたらしい。そして言ったそうだ。『昔僕はきみと違う人とここに来た。でも、今は君を一番愛している』って」
お祖父ちゃんは、何が何だか分からなくなって、危険を冒して町まで、人間を見にいったこともあるそうだよ」
 「・・・それで?」
 ヤマネちゃんは首を振った。
 「同じさ。皆、愛しているって誓うんだけれど、それは終わりのある『愛』なんだって」
 「ふーん、人間って嘘つきが多いんだねー」
 「でもね、でもね・・・もしかしたらこんだけ沢山の人や生き物がいるんだから、1つくらい、永遠の愛があってもおかしくないじゃない?」
 「え、それを探しているの、ヤマネちゃん?」
 「うん。死ぬまでで1つでもいい。それを見つけることが、僕の『夢』だよ」