*『夏の予感』

 ・・・ケケケケケケ!と鳴く鳥か虫かの声を聞いた時、そして蝉の鳴き声を聞いた時も確かに夏の訪れを思うよ。だけどね、
 それは西の空だけ最後の輝きを残していたわずかな時間も終わりの頃。屋敷森に囲まれた一角は時刻の割に薄暗く、子ども達の心を不安にさせる。一瞬ザワワ、と風が走る。それは冬の木枯らしでもなく、もちろん台風のそれでもない。「夏の夕闇迫る頃」にだけ、ザワワと木々を揺らすのだ。
 その瞬間、人々は幼い時に感じた"闇の恐怖"から、"夏の訪れ"を、忘れた記憶から掘り起こすのだ。もしかしたら、ザワワのざわめきの中に得体の知れぬ生物が見つめているのかもしれぬ。そんな得体の知れぬ恐怖さえもひきつれて夏は来る。あの、湿気を含んだ独特の匂いと共に。