*私には好感『her/世界でひとつの彼女』

 昨年の3月に行われた第86回アカデミー賞授賞式で、(作曲賞や美術賞脚本賞など5部門でノミネートされていたので)何度も海辺のシーンや、グルグル回るシーンが映し出された本作。
 監督は脚本も書いたスパイク・ジョーンズ。「マルコヴィッチの穴」の人。ソフィア・コッポラ監督の元ダンナ。舞台は近未来のLA。主人公設定が、自筆の代筆業。自身が幼なじみとの結婚が行き詰まり、離婚協議中にOSの恋人に段々と惹かれ恋に落ちていく話。この恋人の声が、今絶好調感のある、スカーレット・ヨハンソンアカデミー賞をとれば、声だけ主演で主演女優賞か?と話題になっただろうに。
 OSやロボットとの交流を描く映画は今までもヤマほどあっただろうに。加えて販売している企業が、全て同じようにプログラムしているんじゃ無いの?って疑念や、実はコールセンターに女性や男性が働いているんじゃ無い?って疑念もあったのだけれど。
 ところが実は主人公のセオドアを愛し、彼の幸せを願い余計な事をし、そのことで自分の存在とは?を考え始め、哲学者との交流を通じ、多くの人と同時に交流を始める(これをやらせたら、近未来のCPUは最強だろう)。かつて「俺だけの彼女」が、気づけば多くの男と知り合いになっている。それでも「愛する人はあなただけなの」と、言っている事はそこらの女性とあまり変わらない。
 この作品を「つまらない」と一蹴するか、「自我に目覚めたOSに、リアルな女性像を重ね奥が深い」と、唸ってしまうかは、鑑賞者の人生経験にあるんじゃないか。
 決して一般ウケするとは思えない。制作費もずばぬけて安いと感じる作品だ。でも熟年や玄人には(深い・・・!)と思わせるものが本作にはある。それが映画批評サイトRotten Tomatoesで高い評価になっている証拠なんじゃないかな。