今週のお題「好きな小説」 *『ツナグ 想い人の心得』(辻村深月 著)

今週のお題「好きな小説」

 前作『ツナグ』を読み終えた感想は、温かい気持ちに包まれたような感じでいっぱいになった。そんな幸せな感覚から何年経ったろう。あの感覚はもう詳しくは思い出せない・・・と残念がっていたら、本屋で『続:ツナグ』と思われる本書を発見した。
 この時を待っていた。読む前からドキドキだ。こんな感じで読者が待っていることを作家は知っているだろうか。よくぞこの世に生まれて作家になってくれたと感謝していることを。
 お亡くなりになった人が、会いたい人に1回だけ会える。会える時間は夜から陽が昇るまで。設定は前作と同じ。登場人物は、映画『ツナグ』を観たせいで、松坂桃李・祖母アイ子役の樹木希林の二人が頭の中をグルグル・グルグル。短編集で最後の作品がサブタイトルにもなっている、「想い人の心得」に出てくる蜂谷さんが良かった。毎回あの世にいるお嬢様に面会を断られるんだけれど、今回は使者様に一言添えてもらう。その一言で、会うことができるんだけれど、その一言とは・・・?
 この一言が巧いんだよ。辻村深月はよくこの年齢で老練な一言を文章に出来たなぁと感心せずにはいられない。心温まる良い作品である。