*『スロウハイツの神様』

 何でか知らないが、随分話題になったが、あまりタイトルには惹かれなかった。作者は辻村深月。『冷たい校舎の時は止まる』がデビュー作と知った時には鳥肌が立ったぞ。あの頃よりも文章がさらに上達したな、って(別に上から目線ではなく)思った。
 板橋方面にリアルにありそうなアパート、スロウハイツが舞台。そこに主人公でオーナーの赤羽環が、住人達(入居の際に面接あり)と仲の良い家族のような関係で暮らす話・・・が上巻は続く。居住する一人一人に物語が綴られる。しかしそれほど惹かれる話ではない。
 動き出すのは下巻。ようやくここで主人公赤羽環の物語が始まる。最後は人気作家チヨダ・コーキの物語。今まで作者がばらまいていたネタが一気に花開き、泣きたいほどの感動が押し寄せてくる。そうか、この話をしたいがために、ここまで長い長い物語を紡いできていたのか。辻村深月は。
 ありそうで無さそうな、無さそうでありそうな話でもある。チョコケーキの話は、上巻から語られてきたっけ。そうか、こういう風に持ってきたか。
 まだ映画化はされて無いようだ(舞台化はキャラメルボックスがすでにしているらしい)。その場合どんなキャストになるか・・・考えてみただけでも楽しいかも知れない。