*ジャーナリストの神髄「凶悪」

凶悪―ある死刑囚の告発―

凶悪―ある死刑囚の告発―

 「新潮45」編集部編の『凶悪』がすごい!と以前朝日新聞書評欄にあり、ようやく手に入れ読み切った。もうとにかく人がここまで凶悪になれるのか? と、寒気さえする。資産家の老人がいれば、「殺せば何千万円になるな」としか考えられない非道な者たちの記録である。
 報道された当時を振り返っても不思議と記憶が無い。映画『凶悪』も、山田孝之に注目していなかったので全くスルー。そもそも映画そのものを知らなかった。
 それよりも、受刑者の告白をジャーナリズム魂で闇から真相へと導き出した「新潮45」のスタッフに脱帽だ。本書の解説は佐藤優。この解説も良い。なにしろ自身も東京拘置所に収監された身だ。独房からは「自分は無実だ」と叫ぶ声が充満している。こんな意見全てに耳を傾けているわけにはいかない。
 今回はたまたま後藤なる死刑求刑者が「この先の見込みの無いこと」と「大変かわいがっていた舎弟の面倒を三上なる人物が約束を反故にして見捨て、結果自殺に追い込んだ」ために「上申書」を提出し真相が分かった事件である。
おちおち老後も迎えられない、そんな気になった1冊である。そんな資産など持ち合わせていないが、資産が無ければ保険金でも良いと、気軽に殺人を犯す人々である。今、三上なる人物は塀の向こうだろうか・・・? 他の事件はあらかた証拠が隠蔽され立件されていないが、あと一件でも判明していれば死刑になるだろうに・・・読み応えのある渾身の一作だった。