*『夏草の記憶』(トマス・H・クック)

夏草の記憶 (文春文庫)

夏草の記憶 (文春文庫)

今回の旅のお供。彼の作品は(終盤まではクドイくらいスローなので)長持ちするので、移動時間が長い時にはうってつけ(笑) 時代背景は1960年代のアメリカ・・・公民権運動に揺れる南部アラバマ州(名作「フォレスト・ガンプ」にもその辺の事情が多少出てくる)。人種差別に戦う美少女というのもこの作品の大きな鍵となっている。
 背表紙のレビューでは「ほろ苦い初恋の回想と共にたどりついた事件の真相は、誰もが予想しえないものだった! ミステリーの枠を超えて迫る犯罪小説の傑作」。・・・まぁありがちな紹介文。そもそも彼の作品を「序破急」に例えるなら「序序序序序序序序序序序序破急」で、終盤に突然結末がやってくる(もちろん、あちらこちらに「ヒント」は隠されているのだが)。
 例えば(P386/485)被害に遭った美少女が事件当日に、主人公ベンを探す電話をしていたこと。そのことを保安官に黙っていた少女は後にベンの奥さんになる。ベンが事件に関わっているのは間違いなさそうだが、犯人なのか?
 例えば(P169/485)、容疑者とされた男が法廷で美少女の最後の言葉を言う「まさか、あなたが・・・」 主人公ベンもその時には応えることができなかった。だが言う。「しかし、今ならば応えることができる」
 例えば(P259/485) 最後の瞬間を迎えたとき、息も絶え絶えになった彼女の囁き声が聞こえてきた−「まさか、あなたが・・・」−


 この作品は是非「イケテナイ男子」「正直に愛している」と言えないブキッチョな男子に読んでもらいたい作品だ。日米の差こそあれ、愛の物悲しさを(これだけの悲劇として)捉えた作品は久しぶりだ。今風のラノベで書けば人気がでるかも知れない。ただいかんせんこの作品を少年少女が読むには退屈かも知れない。クックだからこそ、登場人物の背景(今回で言えばハイスクール以後に待っている皮肉な運命)が丹念に描き切れているので、それに付いてこられれるかで退屈度が決まる。その退屈を超えれば、アッと言わせるラストが待っている。ラストの仕上げもいい。大事なキーワードは2つだ。
 「愛よ」そうこれは犯罪小説ではなく、愛の物語。
 そして主人公ベンの父親の口癖「この少年は何かが欠けてるー」。
必ずしも順風満帆でない愛を経験した皆さん、是非読んで下さい!