*東野圭吾『手紙』

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

ミステリーの東野圭吾、社会派人間ドラマも書いていたんだね。そもそも近年はミステリーの中に『ヒューマン』を描ける珍しい理系作家だからねえ。こういう作品を書きたかったのかも知れない。
 前知識無しで観て、やっぱり泣けたよ。それを「嘘くさい」とか「泣かせ方が定石通り」なんて言うのはたやすいのだけれど(自分で書いてみれば、そううまくは描けないよ)
 殺人を犯した兄のせいで、人生を狂わされる弟。その弟を山田孝之が「缶コーヒーのジョージア」役でも、「ウシジマ君」役とも全く違った繊細さをみせる。兄の玉山鉄二は良い人にも見える、バカにも見える微妙な役。沢尻エリカが、弟にひたすら尽くすとってもとーっても良い人で出演。
「お兄ちゃんと違って弟のあんたは・・・」みたいな一言が弟を傷つける話はよくあって、みなそれなりに注意しているだろう。弟も兄も別人格。兄弟を育てた人なら、兄弟とはつまり別人格なんだ、と当たり前のことに気付かせられる。兄が、父が人殺しだとしても、弟や子どもには全く違う別人格なんだと、まだ日本社会では気付くことができないでいる。
 そのくせ、ここぞとばかりに「正義漢」を装おうエセ正義漢ばかりが出てくる嫌な社会だ。この小説と映画を観て、少しは日本も大人にならないと。

手紙 スタンダード版 [DVD]

手紙 スタンダード版 [DVD]