*『たとえばふいに』

 たとえばふいに、若い頃普通にやっていたことをやってみる。真夜中まで繁華街をふらつき、そしてミッドナイトクルージン。背後をいつも通り気にしながらアクセル踏み込む。この時期なら窓を開けてTシャツの袖撫でていく風を心地よく感じながらシートに沈み込んでいく。
 意味も無く真夜中なのにCDの音、ボリューム大きめにして流す。隣に愛する人がいたことを思い出しながら、あの頃に戻る。あの交差点を右に曲がれば、横浜中華街だよな。そのまま止まらずに一気に湘南まで走ってみようか、だって明日は休みなんだから。
 そういえばあの頃好きだった曲はカセットだった。今はもう、CDで買い直しているけれど、気分はあの時のままさ。二人でさびの部分をハモったよね。あのお気に入りの曲。研修で1週間留守にした時、カセット渡したら「ずっと一緒にいた時みたい」と君は言ったよね。
 やりきれない時、どうしようも無い時、よく車流したよね。あの時隣に座って、黙ってついてくれたきみはもういない。別々の人生を歩んでいるけれど、こんな夜にはきみを思い出す。無性に。願わくば君もこんなミッドナイト、眠れずに窓際であの頃を思い出してくれれば。いつかどこかで分かれてしまった、あの曲がり角まで戻ることができたなら(どんなに幸せだろう。そしてどんなに涙を流すんだろう)。
 人はいくつ後悔しながら生きていくんだろう、とユーミンの歌を口ずさんでみる。それも二人がよく車内に流しながら口ずさんだ曲だと思い出しながら。

スモークドガラス越しの景色

スモークドガラス越しの景色