*『JR上野駅公園口』(柳 美里)

 全米図書賞受賞、ってあったのでつい本を手に取る。何しろこの賞ときたら樋口一葉著『たけくらべ』も受賞(翻訳部門)というのだから、さぞかしすごいのだろう。
主人公の男は1933年に「天皇」と同じ日に福島県相馬で生まれ、東京オリンピックの前年、出稼ぎのため上野駅に降り立つ。そして今は上野公園のホームレスとして暮らす。彼の人生を、高度成長やら原発やら二度目のオリンピックやら、誕生日が同じ(彼の息子も天皇と同い年で、浩宮殿下から一文字もらって浩一と名付ける)の天皇制にも触れて描き出す。
 上野公園には天皇陛下がおいでになるような施設が多いため、一時的にホームレスを立ち退かせる「山狩り」があることなど、たまに訪れるような自分には知らない世界だった。そういえば3月10日の東京大空襲後に、国民を心配された陛下が惨状視察に出かけることになったが、そのルートはすっかり片付けてしまったため、東京大空襲は大したことが無いとの誤認をしたと、どこかの本で読んだ。それでは視察になるまい。
 「何のために生きるのか」 意外にこの問いは現代の方が答えにくいのかもしれない。初めての柳美里は重い作品だった。