くぅ(5)

家族旅行でも、中学・高校の修学旅行でも、ばれないように鞄に忍ばせ、くぅと旅した。くぅのいない人生は考えられなかったし、自分の青春を振り返るといつもそばには、くぅがいた。一葉の写真を取り出せば、早智子の写真のどこかに必ず、くぅが写っていた。辛い辛い大学受験も、くぅがいたから乗りこえられたと、速達で届いた合格通知を見ながら早智子は感じてた。もうすぐ私の人生の半分は、くぅと過ごした人生になるのね。

 パパとママは夜二人だけになると「くぅの寿命」の話をした。そもそもこのペットは何て言う名の動物なの・・・? ネットで検索してみても、それらしき動物は出てこない。あの晩の話をしても、早智子は「仙人とあんず飴交換した!」と要領をえない。それよりも、くぅが死んだら早智子の具合が悪くなるんじゃないかと、心配した。

 早智子が合格したのは広大なキャンパスを持つ郊外の総合大学だった。入学式にパパに買ってもらった黒いスーツで(こんな格好は人生で初めてだったが、皆同じ衣装でホッとした)、門に一歩足を入れると、先輩達からものすごいサークルの勧誘があった。手に無理矢理渡される大量のチラシ。学部や名前を聞かれたり。
 「きみ、かわいいねー! 絶対うちのサークル入ってね!」と、今までの人生で初めて聞く言葉に赤面した。

 「ねぇ、くぅ。私、可愛いかなあ・・・? 社交辞令ってやつだよね・・・?」
くぅは鳴く代わりに、ぺろりと鼻の頭を舐めた。「もう、くぅったらぁ!」

 その年、梅雨が明けて暑くなる頃、早智子は初めて本気で男の人を好きになった。ダンスサークルの先輩で、不思議とちゃらくない人だった。ヒップホップが得意じゃない早智子に色々教えてくれたのがその先輩だった。早智子は自分が恋することが不思議だった。その人を思うと胸がギュ・・・ってなる。こんな気持ちは初めてだった。まるでTVドラマのようだと思った。
「ねぇ、くぅ・・・」何でもくぅに相談する早智子も、今回は相談できなかった。    ・・・(続く