くぅ(最終話)

 人が人を恋する気持ちは、当事者なら伝わるものなのか。相崎という名の先輩から、早智子に愛を伝えてくれた。嬉しさで泣きたいくらいだった。初めてのデートでキスしてくれたとき、想像していたものより何十倍もいいもんだと思った。くぅのキスとも違った。もしかしたら私はこの人と結婚して一緒に家族を持つのかも知れないな。そう思うとニヤけた。ベッドの中で、自分キモイなって思った。

 つきあい始めて、初めてのXマス、彼氏がディナーに誘ってくれた。お泊まりになる
・・・両親には「友達のパーティ」と嘘をついた。アリバイを友達の温子に頼んだ。パパもママもきっと、嘘を見抜いているんだろうな。でも許してくれた。
 相崎君はどうしてこんなに優しいのだろう。そして色んなことを知っている。何も知らない早智子をしっかりとエスコートしてくれる。優しく抱きしめられながら、私もあなたを愛してる・・! と何度もつぶやいていた。

 翌日はママと目を合わすのが辛かった。だから帰宅したら急いで自分の部屋に入った。
 (あ、くぅ! そうだ、くぅはどうしているの?) いつものペットハウスにはいない。
「くぅ! くぅ?」いつもの棚の中にも、パソコンの陰にもいない。ふうと、チェアーに座り込むと、写真立ての端に細い尻尾が見えた。
「くぅ!?」心臓が止まりそうだった。

 息はしてなかった。目を閉じて冷たくなっていた。どんなにハグしても、温めても、目を開けてくれなかった・・・気付けばこんなにちっちゃくなっていた。あぁ、どうして私は気がつかなかったんだろう・・・あんなに大好きでずっと一緒にいるね!って誓ったのに。
ずっとそばにいて、私を小さいときから見守ってくれて、愛した分だけ愛を返してくれたのに。私の青春の全てだったのに。
 早智子はベッドで声を出して、おいおい泣いた。神様、お願いだから数日前に時を巻き戻して。くぅにもっと愛を伝えたい、もっとハグして、キスして、そうすればきっときっと、くぅは今も元気で、わたしのことを見つめ返してくれるのに。悩み事をいっぱい相談して、そして命尽きる日まで一緒にいられたのに。神様、お願いだから、一つだけ願いを叶えてください。もう一度、もう一度、私にチャンスを下さい・・・