*『下流志向』(内田樹著)

 学ばない子、働こうとしない子が増えている。なぜ? 学ばない・・・は分からないでも無いが、働いて自由な金を手に入れて楽しくないはずが無い。 そういう常識が通用しなくなったのはなぜか? 「消費者として子どもや、保護者を捉え、その視点から教育を論じる」手法は以前見たことがあって、その観点があったかと、ストンと落ちたことがあった。ついつい「勉強することに、何の意味がある?」と聞かれたら、この幼稚な問を論破するべく何十もの反論を用意するのだけれど、筆者は「ギョッとすれば良い」「反論などするべきものでは無い」「なぜなら教育とはそういうものだから」と答える。
 氏の解説に頷ける箇所多数あり。諸外国の階層社会では、貧困地域に図書館や博物館など皆無で、芸術に触れる機会がなく、その方面での成功者になる見込みが無い。しかし日本ではそういうことは無い。なのに、貧困層は、自ら上昇するチャンスを捨て、下流を志向する。そんな国は日本くらいだと。なるほど、そうかも知れぬ。「努力をすれば就職その他で出世することができる世の中ではもうない」「ないけれど、努力してきた者にチャンスが無いわけでも無い」「成功者は『努力』したから成功した」の念が大きく、「敗者は、やっぱりやってもムダだったんだ」の念が大きい。それ故格差はどんどん付いていくのだと。わっかる。すっごくわかる。
 一方で「時間」を軸に解説する箇所は、どうなのかな?と首を傾げないでも無い。「消費行動は『時間をおかずに』価値を交換し合う」ことが大事で、「教育とは、そも10年後20年後に結果が出てくるもの」で相容れないものだと。確かにそれはそうなのだが、それが「勉強しない子・働こうとしない子」増大の原因か。いやぁそれだけじゃ無いだろう。
 かつて大学で教育学を学んだ。その時の教授の解説は分かりやすく、私の指標の一人になっている。教授ならこの本を学生に読ませ、一通り分析させた後で、どう読み解くのか。聞いてみたいものである。いやもう学生に読ませてレポート書かせているのかも。
 前半一気に読ませる割に、後半がなんかまどろっこしい。でも置いておきたい一冊である。

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)