*『女のいない男たち』(村上春樹)

 油断していたら、いつの間にか本屋にあった。多崎つくるとラオスにかかわっている間に、短編小説がでていたなんて・・・
 春樹ファンには、春樹作品は毎日の栄養サプリみたいなもので、適度に投入されていないと、なんか肉体が自分のもので無いような気がする。そう気付くのは、春樹特有のフレーズに出会う時だ。例えばこんなふうに。
 「波紋が広がり終わったあとの池の水面のような表情だ」
 分かる。分かるんだけれどこんなフレーズ今まで使ったことある? こういうフレーズに出会うと「あぁ、春樹に戻ってきたな」って思う。もう1つ思うのは、
 「夢というのは必要に応じて貸し借りできるものなんだよ、きっと」
 こういうセリフがポンポン出てきて全部は覚えていないんだけれど、どこかで吸収したビタミンみたいに、自分の形成にどこかで寄与しているんだと思う。そして収録作「イエスタディ」P112にあるように
「決めの台詞を口にしすぎることも僕の抱えている問題の1つだ」
で初めて気付いたことだが、こんなに気になるのは「決め台詞」が文中に多数出てくるからなのか。この文が出てくるのは主人公と相手との(それは往々にして女性なんだが)掛け合いの時。春樹の作品には、女性との掛け合いや、情事のあとの問わず語りみたいなことが多い。そういう時に心に響く一言が出てくる。
 作品は個人的に「ドライブ・マイ・カー」と「イエスタディ」「シェエラザード」が良かった。全て春樹らしいのだけれど、難解なのもある。
 「木野」では不可解な話に香川県高松市が出てきて「海辺のカフカ」を連想させる。表題作「女のいない男たち」は抽象っぽく、最近は億劫に感じられた。年齢のせいかもしれないな。

女のいない男たち

女のいない男たち