*『熱い街で死んだ少女』(T.H.クック)

 なじみない作家の作品読んでガッカリするのが怖くて、なかなか未知の作家の作品が読めない。以前、もう読むのないよーと、たまたま手に取ったのが『心の砕ける音』(T.H.クック)で、それから縁があって読み続けている。彼の作品は序盤が遅い。「序破急」という言葉があるが、この「序」の展開が遅い。それでも『夏草の記憶』のような感動作に出会える時がある。
 驚いたのは死んだ姉が蔵書は全てあんたへの遺産、と書棚全部が転がり込んできたのだけれど、そこにT.H.クックの本が何冊もあったのには正直驚いた。「このミステリーがすごい! 海外編」などでベスト10に入っているので読んでいたのかも知れない。
1960年初頭を知るよしもなく、キング牧師だって、有名なフレーズくらいだ、知っているのは。そのまさに牧師の演説会が開かれる熱気を含んだ南部・バーミンハムが舞台。一人の黒人少女が遺体で発見される。人種差別と差別撤廃を叫ぶデモが最高潮を迎える中、黒人寄りの捜査をする白人に容赦などは無い。一匹狼の刑事が捜査をするのは、そんな1963年のアラバマキング牧師のいた時代を、こういう形で体感するのもそう悪くない。何しろ我々日本人にとって、彼の国の人種差別問題は正確に分かりづらいから。

熱い街で死んだ少女 (文春文庫)

熱い街で死んだ少女 (文春文庫)