*『街とその不確かな壁』(村上春樹著)

  考えてみれば(考えなくても)、春樹を読んでいなかったじゃないか。あんなに夏が来たら読もうと思っていたのに(やはり見えるところに積読しておかなきゃダメだね)。
 今回の主人公に名前は無い。実社会にいるのはぼくで、壁の向こうにいるのは僕、だ。相変わらず大人になっても、同性のマブダチはおらず、ジャズに詳しくシャレオツなスパなど作るし、高級なワインやシングルモルトを好む……これでヤクルトファンなら、まんまハルキでんがな!!
 もちろん、出会ったばかりのコーヒーショップのおねえさんともイイ感じになるし、ここだけ読んでもハルキワールドだし、出だしの(君)が話す、壁の内側の世界も、いつものハルキワールド。ふと自分の16~17歳の頃に思いを馳せれば、そんなこと言いそうな女子はいただろうか? そんな娘と当初はついて行けそうな気がする。だけれどきっと(めんどっちい)と思い始めるんだろうな。だってメンヘラと紙一重じゃない? 壁の内側を強く念じる根気と勇気を持ち続ける自信が無い。
 今年は春と夏に(今まで3回しか行ったこと無いのに)会津に行った。これも運命なのかな? あの鄙びた地方のどこかにあるらしい町営の図書館にも思いを馳せる。まさか会津が出てくるとは思わなかった。不登校の「M**くん」にも名前が出てこない。「ミキオ君」でも「マサタカ君」でもいいだろうに。大作家のこだわりが分からない。
 子易さんみたいな、「良い人」が出てくるからか、不思議なハルキワールドにも安心してページをめくることができた。あ~あ、もう読後。なんか淋しいな。夏は電車旅が多いので、読書の夏、でもある。