*『レプリカたちの夜』 一條次郎著

 第二回「新潮ミステリー大賞」受賞作品なのだが、これはミステリーなのか? 受賞作品だから「ミステリーなんだ」と思い進めると、足下を掬われる。SFのような、哲学書のような。
 面白いが、特に主人公の一人、うみみずさんが妙に理屈っぽく、延々と持論を述べる時には哲学的で、私の脳にはすんなり落ちてこない。眠くなる(実際何度か寝落ちしている)。要するに私に理解する脳が足りないのだ。読んだことはないが、きっと安部公房でも寝落ちするだろう。一方こういう理屈バッタ言い合いが楽しい輩には、たまらないのだろう。
 シロクマが暴れるシーンは、何かリアリティがある。熊と言ったら「ウガァー」だろ、普通。しかし本著では突然現れ「あーる!」と叫びながら、一撃を喰らわす(そりゃあ死ぬよな)と思わせる。
 レプリカはどんどん溶けて死んでいく。主人公達も目の前に現れたレプリカントに、自分こそが本物!とは言えない状態になっていく。「自我」があるから自分なのか? レプリカントに自我が有るなら、自分は何者なんだろう?
 動物愛護者のうみみずさんは、動物を下等と決めつける者達を軽蔑しているが、本当のことはどうだろう? それが本作のテーマなのかも(一見、映画の『ブレードランナー』のレプリカントに自我はあるのか? の後追いにも思えるのだが)。動物に自我はあるのか。
 思えば文の冒頭部分に出てきた「スパイがいる」とかの話は一体どこに行ったのだろう? 正月頃時間ができたら、一條次郎の第二作を読んでみようか、と思う。